学部プロジェクト研究

学部プロジェクト研究

学部プロジェクト研究

ソフトウェア情報学部では、学部内教員の研究連携を促進する目的で、学部プロジェクト研究制度を設置しています。公募により募集され、複数の学部教員が関わること、既にある程度の実績があり研究としての発展が期待できること、岩手県を含む地域・社会への貢献が認められることを主な条件として採択されます。

  • 学部プロジェクト研究01

    球面上の曲線の内在的性質の研究

    球面上の曲線の内在的性質の研究

    (2024年度ソフトウェア情報学部ニュースレター掲載)

    田村 篤史児玉 英一郎山田 敬三片町 健太郎

    研究計画書にも書いたように、この分野は意外とブルーオーシャンであり、新発見がいくつか報告されています。
    平面幾何における三角形の心(内心、外心、重心など)は、2024年1月24日現在で61、702個発見されており、今後も発見が続くことが見込まれています(平面三角形の心のすべてに価値がある訳ではありません)。一方、これらの心のうち、球面三角形の心として何が生き残るのか、については現在も活発な議論が行われています。さらに、球面三角形の心と双曲三角形(特にKleinモデル)の心の多くが1対1に対応しているようだ、ということもわかってきています。このことによって、球面三角形ではなくKleinモデルから生き残る心を特定しようとする試みもあります(ただし、完全に1対1に対応している訳ではありません)。
    われわれはこれらの先行研究を受けて、心ではなく球面上の曲線を、Kleinモデルをはじめとする円板モデルによって、その性質を理解したり分類したりできないか、ということに取り組んでいます。球面をR3の部分空間として捉えても、多様体として捉えても、球面上の曲線の性質を計算するのは非常に煩雑です(微分方程式が解けないことが多いです)。しかし、何らかの円板モデル上であれば、比較的計算が容易になるのではないかと考え、現在、模索しています。

    球面上の曲線の内在的性質の研究
  • 学部プロジェクト研究02

    算数障害の分類の再考察および抽出法の開発

    算数障害の分類の再考察および抽出法の開発

    (2024年度ソフトウェア情報学部ニュースレター掲載)

    田村 篤史児玉 英一郎山田 敬三片町 健太郎

    この分野は、盛岡市内の高校との連携を受けて、研究を進めてきました。もともと、2023年度は生徒たちの特性や誤答を分析することを目標としていました。われわれは当初、数学を原理から根本的に理解させる方向で学習デザインを作ることを考えていましたが、それは困難であるという結論に至りました。生徒たちの躓きはもっと根源的なところにあり、さらに言えば、認知スタイル等にも依存しているように思われます。つまり、数的概念の形成にまで遡る必要性も考えられ、これを高等学校の通常の授業で行うことは困難であると考えたのです(強引に進めると生徒たちの自尊心を傷つけてしまう可能性もあるし、そもそも高等学校の課程を終えることができません)。そこで、ある種のトレーニングにより、数的概念を「体得」することが最適であると考えました(「分数の割り算はひっくり返して掛け算にする」の根拠を小学校では教えずに、体得させることと同じです)。2024年度の研究目的は、効果的なトレーニングにより生徒たちに数的概念を体得させ、高等学校の課程で求められる数的処理を行えるようにすることです。これに伴い、当該高校の生徒たちの個別状況に合わせて、下位問題を自動生成するシステムの開発を行うことにしました。これには、企業2社にも参画していただく予定です。

  • 学部プロジェクト研究03

    Towards the Implementation of Digital Twins for Agricultural Applications

    Towards the Implementation of Digital Twins for Agricultural Applications

    (2024年度ソフトウェア情報学部ニュースレター掲載)

    Stephanie Nix間所 洋和

    背景

    近年、デジタルツインが注目を集めています。デジタルツインとは、現実世界の製品やプロセスなどの物理的な情報を高精度な仮想空間に再現し、双方向でデータを統合することで、より効率的な運用を図る先進的かつ革新的な技術です。この技術を農業分野に応用することで、生産性の飛躍的な向上や作業の抜本的な効率化が期待されます。特に、AIやIoTなどの他の技術との組み合わせにより、デジタルツインは農業の未来を大きく変革する可能性を秘めています。

    研究の目的

    本研究の目的は、無人航空機(UAV) や無人地上車(UGV) に電波測距(LiDAR) センサ、高解像度光学カメラ、高精度慣性測定ユニット(IMU) を搭載し、デジタルツインを農業分野へ本格的に導入するための可能性を検証することです。農地や果樹園の精密な3次元計測、作物の生育状況の詳細なモニタリング、高度な病害虫防除技術の開発、効率的な除草作業の実現、最適な施肥管理の実現を、仮想空間と物理空間をシームレスにリアルタイムで統合することで目指します。この試みにより、零落が止まらない日本の農業分野に、革新的なイノベーションをもたらすことが期待されます。

    研究内容

    本研究では、農業関連企業や大学の研究機関などとも密に連携し、最先端のシミュレーション技術と高度な深層学習フレームワークを駆使することで、デジタルツインの農業分野への最適な応用方法を探求します。長年の課題である食料自給率の大幅な向上、食品の安全性確保への対応強化、若年層の農業離れ防止と新規参入促進、日本農業の新たなフロンティアの開拓などに資する要素技術の開発を主要な目標に掲げています。具体的には、LiDAR、高性能光学カメラ、UAV/UGVなどのデバイスを組み合わせた精密計測技術の有効性検証、AIによる作物生育予測モデル、病害虫自動検知・防除モデル、雑草自動識別・除草モデル、土壌センシングによる最適施肥モデルなどの開発を進めています。これらの革新的な技術を組み合わせることで、食料安全保障の強化と若年層の積極的な農業参加促進に貢献し、日本の農業に新たなパラダイムシフトを切り拓く糸口の探究を続けています。

    研究成果

    本研究では、現時点で3点の成果が得られました。1点目は、3Dプリンタで独自に設計・製作したブドウ収穫ロボットを試作しました。デジタルツインとの連動により、ブドウの果実を傷つけず、高効率な収穫作業が期待されます。2点目は、連携先の大学の協力を得て、ブドウ園の詳細な画像データを収集し、最新のYOLOv5を用いたブドウ房や傷んだブドウの高精度検出、基盤モデルによるブドウ房の粒単位での区分画を実現しました。また、拡散モデルによりブドウの画像を生成することで、学習モデルを拡張しました。3点目は、ドローンから取得したRGBデータとLiDARデータを組み合わせた先進的なマルチモーダル深層学習モデルにより、リンゴ園の高解像度3次元復元を実現しました

    ドローンによる無人屋内壁面検査のための測位

    展望

    デジタルツイン技術の農業分野への本格的な導入により、生産性や収益性の飛躍的な向上が期待できます。本研究が、日本の農業の生産力強化と持続可能な発展を実現する上で、中核的な役割を果たすことを確信しています。デジタルツインは、日本の農業を未来へと再飛躍させる究極のゲームチェンジャーとなり得るでしょう。

  • 学部プロジェクト研究01

    初等中等教育における情報教育の高度化に関する実践研究

    初等中等教育における情報教育の高度化に関する実践研究

    (2023年度ソフトウェア情報学部ニュースレター掲載)

    市川 尚大堀 勝正小嶋 和徳児玉 英一郎田村 篤史

    学部プロジェクトの実施

    2023年度に推進された学部プロジェクトのうち、情報教育のプロジェクトを紹介します。
    初等中等教育において、GIGAスクール構想による1人1台のICT環境の導入が進められ、あわせて児童・生徒の情報活用能力の育成(情報教育)が求められています。本プロジェクトでは、初等中等教育の現場に資することを重視しながら、教員5名が協働して情報教育に関する研究・実践を行いました。そのいくつかを紹介します。

    高等学校情報科の現状調査

    学習指導要領の改訂や大学入学共通テストで「情報」が出題科目に追加されるなど、高等学校情報科をとりまく状況は大きく変わっています。そこで、現職教員の心理の変化などを明らかにするために、本学部が関わった情報科「情報Ⅰ」教員研修で取得した、教員の課題に関する自由記述データを基に、計量テキスト分析を行いました。図はその分析の結果の一部で、教員が考える課題の傾向を分析した共起ネットワークです。

    分析の結果、新課程の教育への対応や指導課程の調整,生徒の技能差への対応などの従来から見られる課題に加えて、新たに「情報Ⅰ」の開講年次や数学教科との連携に関する懸念が課題の傾向として確認されました。この研究成果は以下の論文として公表しています。(大堀・市川)

    初等中等教育における情報教育の高度化に関する実践研究

    教育DX研究高大連携事業

    学部の2つの研究室が盛岡白百合高等学校と協定を結び、教育DX研究事業を推進しました。DX事業では、ICT環境の整備と教科における学びの促進が進められています。現場の教員との協働にはチャットサービスのSlackを用いました。
    ICT環境の整備では、ICT活用の土台づくりとして、生徒にメールアドレスを配布し、教育系のサービスに個別に登録できるようにしました。教科の学びの促進については、数学と情報の2つについて行いました。数学については、本ニュースレターの学部プロジェクトで紹介しています。情報については、情報ⅠのPythonプログラミングの授業について、授業デザインから大学教員が関わりました。無料で活用できるオンラインのプログラミングの環境(paiza.io)に生徒が個別にユーザ登録を行い、既存のオンライン教材を活用しながら、用意した課題に生徒たちはペアプログラミングで取り組みました。大学院生も支援に入り、授業実践を行いました。(田村・児玉)

    ドローンを用いたプログラミング演習

    地域の小学生・中学生・高校生に対して、ドローンを用いたプログラミング演習を行いました。
    ・滝沢市教育委員会との地域協働研究において、滝沢市内の全小学校6年生と中学校1校に実施。
    ・学部イベント「おでんせ!サイエンスキッズ・ジュニア」において、小学校高学年と中学生に実施。
    ・釜石高等学校SSH(スーパーサイエンスハイスクール)のプログラミング実習のなかで実施。

    これらの演習では、ドローンに用いられている技術やドローンが社会にどのように役立っているのかについても触れながら、実際にドローンを動かすためのプログラムをグループで考えます。児童生徒はブロック型のプログラムを組んでドローンを飛ばし、想定した動きと違っていれば、試行錯誤をしながらプログラムを調整していきます。
    この演習は、ドローンを飛ばして移動させるだけでなく、ドローンに付属するカメラからの画像認識を用いて、図形やQRコードを認識すると、動きを変える等のプログラミングを取り入れている点が特徴となっています。(小嶋・市川)

    初等中等教育における情報教育の高度化に関する実践研究
  • 学部プロジェクト研究02

    ドローンによる無人屋内壁面検査のための測位

    ドローンによる無人屋内壁面検査のための測位

    (2023年度ソフトウェア情報学部ニュースレター掲載)

    鈴木 彰真新井 義和今井 信太郎小嶋 和徳馬淵 浩司

    はじめに

    トンネルのようなインフラや工場内の煙道は、定期点検が必要ですが、高所作業を伴うことが多く、より安全な点検方法が求められております。そこで、岩手県立大学では、ドローンを用いた研究グループを立ち上げ、足場を組むことなく自動操縦によるドローンを用いたひび割れ検知を行う研究を進めております。
    自動操縦には、ドローン自身が現在どこにいるのかをリアルタイムで把握すること(自己位置認識)が必要です。一般的なドローンでは、GPSを利用していますが、衛星の電波が遮断されてしまうことから、屋内環境での利用が困難です。
    また、クラック検出のためには壁面に接近する必要があり、電波を利用する多くの屋内測位は精度面で問題があります。一方、超音波を用いた屋内測位システムは高精度で測位できますが、ノイズに弱くドローンの飛行音によって測位が困難になります。
    そこで、本研究グループでは、特殊な変調によって雑音に強い耐性をもつ超音波を利用したドローンの測位を提案し、研究を進めております。

    提案手法

    提案システムは、電波で計測するGPSの技術を超音波に応用したものです。トンネルに設置された4つの送信機から、ドローンに設置された受信機に向かって同時に超音波を送信し、超音波の飛行時間に音速をかけることで、送信機から受信機までの距離が求められます。また、得られた距離と送信機の座標から、受信機の座標を求めることができます。
    提案する方法は、GPSで培われた技術を応用することができます。例えば、計測時間の短縮のために、前回得られた位置を用いて計算時間を短縮する方法(同期維持)や、より多くの送信機を利用できるようにする方法(GOLD符号)があります。また、予め決められた座標に受信機を固定局として設置し、固定局で得られた計測結果との誤差を用いて、測位対象の座標を補正する技術(ディファレンシャル補正)もあります。これらの応用が超音波に応用したときに効果的か、またドローンの測位に利用可能かを検証しております。

    ドローンによる無人屋内壁面検査のための測位

    これまでの成果

    福島にあるロボット実験フィールド内のトンネルにおいて、ドローンで測位を行う実験を行いました(図 1)。その結果、ドローンの飛行におけるノイズの影響下では、提案手法を用いても、ドローンに取り付けた超音波センサは測位が困難でした。一方、ドローンから50cm離して設置することで、15cm以内での誤差で測位が可能でした。
    また、GOLD符号を用いることで、より多くの送信機が同時に利用できることも確認しました。さらに、ディファレンシャル補正の有効な範囲は狭く、遠ざかるほど、ディファレンシャル補正による測位精度を改善する効果が失われますが、基地局の近くにおいては効果を発揮することがわかりました。

    おわりに

    ドローンを用いた屋内壁面検査のために、スペクトル拡散変調による超音波を用いた屋内測位を行っており、その有効性が明らかになってきました。今後は、大きなドローンに対応できるように、よりノイズに強い超音波の変調方法を考案します。また、移動するドローンに対して測位が可能であるか検討してまいります。